犬訓練士の資格は、目的によってさまざまです。
犬を訓練し、能力を最大限引き出すのが犬の訓練士の役割となります。
ここでは、犬の訓練士について、訓練の種類や資格の取得方法、仕事内容から給料までを詳しく解説します。
Contents
犬訓練士とは?
犬訓練士とは、犬に備わった能力を人間のために使い、働く使役犬を訓練するプロフェッショナルのことをいいます。
使役犬とは、警察犬、麻薬探知犬、災害救助犬、盲導犬、聴導犬、介助犬などのことです。
ドッグトレーナーと同じ意味で使用されることもありますが、正確にはドッグトレーナーは家庭犬のしつけを行うのに対し、犬訓練士は使役犬への専門的な訓練を行います。
訓練以外では、犬の世話全般を引き受けて一緒に生活することもありますので、犬への総合的な知識が必要となります。
訓練では、使役犬という役割の重要性から、担当犬に厳しく接する場面もでてきます。
犬との信頼関係を築きながら、犬本来の能力を高めていくことが重要となるのです。
犬訓練士の公認訓練士資格とは?
犬訓練士は、必ずしも資格が必要なわけではありません。
しかし資格があると就職が有利になるメリットがあります。
特に以下3つの民間団体が運営している公認訓練士の資格を取得すると、どこへ行っても信頼が得られるでしょう。
3つの民間団体はこちらです。
- 一般社団法人ジャパンケンネルクラブ(JKC公認訓練士)
- 公益社団法人日本警察犬協会(公認訓練士)
- 日本シェパード犬登録協会(公認訓練士)
それぞれの団体で資格取得条件が異なります。方法としては上記の民間団体に所属し、3〜6年の経験を積んで資格試験に挑む方法や、大学や訓練所、専門学校などで学び、資格取得に挑戦する方法があります。
大学や専門学校は授業料など出費が多くなります。訓練所であれば住み込みで働くことが多く、少ないながらも給料をもらいながら資格取得を目指せます。ご自身の状況に合わせて選ぶといいでしょう。
では3団体の公認訓練士は、それぞれどのような使役犬の訓練に有効なのでしょうか?
- ジャパンケンネルクラブ JKC公認訓練士→家庭犬、警察犬
- 日本警察犬協会 公認訓練士→警察犬、災害救助犬
- 日本シェパード犬登録協会 公認訓練士→警察犬
上記はあくまで参考に、それぞれの団体の特徴を活かした得意分野と捉えていただければと思います。
なりたい職業に合わせて選ぶのもいいでしょう。
3つの民間団体の公認訓練士資格について、その仕組みをお伝えしていきます。
ジャパンケンネルクラブ!JKC公認訓練士
JKC(ジャパンケンネルクラブ)は、家庭犬や使役犬の訓練はもちろん、アジリティー、フライボールなどの競技会を通して、飼い主と犬が楽しめる環境を提供しています。
JKC公認訓練士は、技術と経験により6階級に分かれています。
- 訓練準士補
- 訓練士補
- 訓練練士
- 訓練教士
- 訓練範士
- 訓練師範
①の訓練準士補が最も難易度が低く、⑥の訓練師範が最も難易度が高くなっています。
まずは資格試験に挑むにあたり、2つの受験資格をクリアしなければなりません。
- JKCの愛犬クラブへ入会して、会員歴が最低でも1年以上あること
- 訓練試験において、決められた頭数を合格させること
②の訓練試験というのは以下のカテゴリーに分かれており、階級によって決められた頭数というのも変わってきます。
訓練試験のカテゴリーはこちらです。
- 家庭犬の訓練(家庭犬訓練試験のことをCompanion Dogといい、頭文字をとってCDⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Xと4つのレベルがある)
- 警備犬の訓練(警察犬訓練試験のことをGuard Dogといい、頭文字をとってGDⅠ・Ⅱ・Ⅲと3レベルがある)
- FCI国際作業犬試験(IGP)(世界最高峰の犬訓練士試験)
家庭犬の訓練を表すCDⅠは、初等科となっており、5つの課目から成り立っています。CDⅡは10課目、Ⅲは20課目、Xは30課目とレベルが上がるにつれ、難易度、量共に増えていきます。
例えば1番難易度の低い訓練準士補を受けるためには、訓練試験においてCDⅠ以上の2課目の合格犬であることとの規定があります。
日本警察犬協会!公認訓練士
日本警察犬協会が発行する公認訓練士の資格には、警察犬という責任のある仕事を遂行するために、以下5段階の階級があります。
- 三等訓練士
- 二等訓練士
- 一等訓練士
- 一等訓練士正
- 一等訓練士長
①の三等訓練士が最も難易度が低く、⑤の一等訓練士長が最上級となります。
飛び級はできませんので、三等訓練士から取得し、順次昇格する仕組みです。
昇格には下位級での経験年数が必要で、階級による規定はこちらです。
- 三等訓練士から二等訓練士:三等訓練士として2年以上
- 二等訓練士から一等訓練士:二等訓練士として5年以上
- 一等訓練士から一等訓練士正:一等訓練士として10年以上
- 一等訓練士正から一等訓練士長:一等訓練士正として10年以上
三等訓練士から一等訓練士長まで、最短でも17年かかるだけでなく、昇格には所定の条件をクリアし、2年おきに更新も必要となります。
しかし実際には資格に挑戦しながら公認訓練士として仕事ができますので、キャリアを重ねて、長い目で見ていくといいでしょう。
日本シェパード犬登録協会!公認訓練士
日本シェパード犬登録協会が運営する公認訓練士試験は、使役犬として非常に有能とされるシェパード犬に特化したものです。
公認訓練士の目的は、シェパード犬の能力を高め、訓練に対する評価を行うことにあります。
試験の種類は5つに分かれています。※( )は犬の受験資格年齢
- 特殊階程A:服従訓育試験(満6ヶ月以上)
- 第1階程:種族訓育試験(満10ヶ月以上)
- 第2階程:防衛犬試験(満12ヶ月以上)
- 第3階程:警務犬試験(満12ヶ月以上)
- 特殊階程B:捜索犬試験(満20ヶ月以上)
第1階程から受験し、第2、第3階程と受験していきます。
特殊階程Bに関しては、第1階程に合格すれば、他の階程を受ける前でも受験できます。
特殊階程Aは、第1階程に合格したあと、上記の規定に順じます。
日本シェパード犬登録協会が定める公認訓練士の合格基準は、得点率70%以上です。
さらに得点率90%以上を優、80%以上を特良、70%以上を良として評価がつきます。
例外として第3階程の警務犬試験は、年度日本訓練ジーガー競技会において総合得点80%以上の犬に与えられます。
使役犬で変わる!犬訓練士の進路とは?
犬訓練士は、使役犬の種類によって進路が大きく変わります。
例えば警察犬と盲導犬であれば、仕事内容からもその違いは歴然でしょう。
そのため、犬訓練士は使役犬の種類によって進路が変わり、専門性をもって学んでいくようになります。
ここでは、代表的な警察犬訓練士と盲導犬訓練士に関して、その道のりをご紹介していきます。
警察犬訓練士になりたい場合はどうするの?
警察犬訓練士になるには、2通りの方法がありますが、どちらも必ずしも資格が必要なものではありません。
しかし警察犬訓練士になるまでや、訓練士として仕事を始めてからも、さまざまな場面で資格は役に立ちます。
警察犬訓練士では、上記で説明した3つの民間団体の公認訓練士であれば、どの資格でも効果があります。
ここでは資格とは別に、警察犬訓練士の仕事に就く上での進路をみていきます。
まず、警察犬訓練士には2通りの働き方があります。
- 直轄警察犬訓練士(各都道府県警察が直接管理、飼育する警察犬の訓練士)
- 嘱託警察犬訓練士(民間の訓練所に入所し、一から警察犬を育てる訓練士)
それぞれどのような流れで仕事に就けるのでしょうか?
①直轄警察犬訓練士
直轄警察犬訓練士は、以下の3ステップからなることができます。
- 警察官採用試験を受け、警察官になる
- 鑑識課に配属される
- 警察犬の担当になる
まず通常の警察官になって、鑑識課に配属されるのを待つわけですが、これがなかなか思うようにはいきません。
公認訓練士などの資格をもっていると、配属される確率は上がります。
さらに鑑識課に配属されたあと、警察犬の担当になる必要もありますので、なかなか長い道のりです。
ちなみに直轄警察犬は、次に紹介する嘱託警察犬の訓練所から選ばれた犬が多く、一から訓練に携わりたい人は嘱託警察犬訓練士になることをお勧めします。
②警察犬訓練所に入所する(嘱託警察犬訓練士)
嘱託警察犬訓練士は、日本警察犬協会の公認訓練士が経営する警察犬訓練所に就職します。
そこで犬の世話や訓練の仕方を学びながら、毎年各都道府県で行われる審査会に出場し、担当犬を合格させる必要があります。
そうすることで警察犬として認められ、自身も警察犬指導手となり現場に赴くことができるのです。
審査会は1年更新なので、毎年合格する必要があることを覚えておいてください。
出動要請は1日に1回という頻度のところもあるように、常に出動できる体制を整えておく必要があります。
また、日本警察犬協会の公認訓練士の試験を受けるには、この訓練所で実績をつくることが受験の条件ともなっています。
盲導犬訓練士になるには?
盲導犬訓練士になるには、独自の民間団体が存在し、上記で紹介した公認訓練士とは違う方法になります。
NPO法人全国盲導犬施設連合会や、日本盲導犬協会などが資格を発行しています。
審査基準は違いますが、どちらも盲導犬の訓練に特化した盲導犬訓練士の資格と、盲導犬ユーザーと盲導犬の歩行を指導することができる盲導犬歩行指導員の資格、2つを取得する仕組みです。
資格取得までの期間は、経験年数も考慮されますので、盲導犬訓練士になるまでに3〜5年、盲導犬歩行指導員になるまでにはさらに2〜3年かかると言われています。
これとは別に、国家公安委員会が指定する盲導犬育成団体研修を受け、経験を積む中で必要な知識と素質があると判断されれば、盲導犬訓練士となることもできます。
盲導犬訓練士はどれも募集自体が少なく、欠員が出たときだけ求人がでるようなところも多いですので、非常に狭き門といえるでしょう。
使役犬で変わる!犬訓練士の仕事内容
犬訓練士の仕事は、使役犬の種類によって変わります。
ここでは、代表的な使役犬を扱う「警察犬訓練士」と「盲導犬訓練士」について、その仕事内容をご紹介していきます。
警察犬訓練士の仕事内容とは?
警察犬は主に以下の能力を身につける必要があります。
- 足跡を追跡する(捜索)
- 匂いを嗅ぎ分ける
- 警戒、護送、パトロール
さらに災害救助犬として出動することを踏まえ、過酷な状況での訓練も行う必要があります。
警察犬訓練士は、想像以上に体力を必要とする仕事なのです。
民間の訓練所では、基本的に住み込みで、見習い訓練士となり、家族や犬と生活を共にします。
訓練所での1日のスケジュールはこちらです。
7:00 | 犬の排泄管理、犬舎清掃 |
8:00 | 訓練士の朝食 |
8:30〜 | 犬の訓練、訓練後犬の朝食 |
12:00 | 訓練士の昼食 |
13:00〜 | 犬の訓練 |
17:00 | 犬の排泄管理 |
18:00 | 犬の夕食 |
19:00〜 | 訓練士の夕食、ミーティングなど |
警察犬は犯罪に関わる重要な仕事である上、犬にも適性が求められます。
犬ごとの性格を見抜き、正しく訓練することが必要なのです。
盲導犬訓練士の仕事内容
盲導犬訓練士のお仕事は、まず候補となった犬から盲導犬に適性のある犬を選び、目の不自由な方に段差や角、障害物を教えることができるよう訓練します。
犬の訓練が進むと、盲導犬ユーザーとの歩行訓練にも同行します。
盲導犬だけでなく、ユーザーに歩行訓練と合わせて犬との関わり方を指導していきます。
また、訓練所では盲導犬の日常の世話も担います。
盲導犬訓練士の1日のスケジュールはこちらです。
6:30〜8:00 | 犬の食事・犬の排泄(朝当番制) |
9:00 | 出勤・朝礼・申し送り |
9:30〜 | 犬の訓練 |
12:30 | 休憩 |
13:30 | 犬の排泄 |
13:30〜 | 犬の訓練 ※訓練の合間に事務所にて報告書作成、盲導犬ユーザーやボランティアへの連絡、繁殖や訓練報告などの会議 |
18:00 | 業務終了(この後の業務は夜当番が担当) |
20:00 | 犬の食事・排泄・犬舎および排泄グランドの消毒 |
21:00 | 業務終了 |
盲導犬を必要とする人への連絡や、コミュニケーションも重要な仕事となっています。
盲導犬訓練士は、目の不自由な方が盲導犬との新しい日常をスタートする節目に立ち合う仕事です。
盲導犬ユーザーの笑顔と、犬の成長が喜びとなるでしょう。
犬訓練士の給料は?
犬訓練士の給料は、使役犬の種類や仕事内容によって変わります。
ここでは代表的な「警察犬訓練士」と「盲導犬訓練士」、例外として「介助犬訓練士」の給料をみていきます。これらを知れば、おおよそ犬訓練士の給料がイメージできるでしょう。
ではまず警察犬訓練士の場合はこちらです。
住み込みで働く見習い訓練士は、給料というよりお小遣いのような形で、月3〜5万円が支給されます。
これは家賃や光熱費などの生活費がほとんどかからないためです。
正式に警察犬訓練士となれば、以下の給料が期待できます。
- 警察犬訓練士(直轄)→月収20〜24万円、年収330〜380万円
- 警察犬訓練士(嘱託)→月収13〜15万円、年収200万円
直轄と嘱託でやや開きがありますね。
次に盲導犬訓練士の場合は、経験年数が考慮されます。
訓練士の年齢からみた給料はこちらです。
盲導犬訓練士→20代:月収16〜17万円、30代:月収20〜24万円、40代:月収25〜30万円
経験年数が増えるにつれ、徐々に給料も上がっていくことでしょう。
それらに比べ、例外として介助犬訓練士の場合を見てみると、生活できるくらいの額はもらえていないのが現状です。
おそらく月10万円以下で、ボランティア扱いとなっている面が多くあります。
犬訓練士の給料は、使役犬や仕事内容によって大きく変わるということですね。
犬訓練士に向いている人
犬はそれぞれ本当に個性的です。その性格を理解し、訓練にあたる必要があります。
犬訓練士に向いているのは以下のような人です。
- 犬が好き
- 世話好き
- 根気がある(訓練がうまくいかなくとも目標達成まで努力できる)
- 感情的にならない
- 体力がある(犬の生活に合わせるため)
- コミュニケーションが取れる
犬は人間と違って、集団で教えることができません。
一頭一頭向き合って訓練する情熱と根気、一対一のコミュニケーション能力が重要となるのです。
まとめ
犬訓練士は、使役犬の種類によって専門的な知識や資格が求められることをお伝えしてきました。
- 犬訓練士は、使役犬を訓練するプロフェッショナル
- 民間では主に3団体で公認訓練士の資格を取得できる
- 犬訓練士は使役犬の種類によって進路が変わる
- 使役犬の種類ごとの仕事内容
- 犬訓練士に向いている人
犬訓練士は、社会に貢献する犬を育てるという責任感と、犬との信頼関係が大切なお仕事です。
自身が育てた犬が活躍する姿を見たときは、嬉しさもひとしおでしょう。
ぜひ犬訓練士を目指して一歩踏み出してください。