家畜人工授精師という仕事を知っていますか?
家畜人工授精師とは、家畜(牛など)の人工授精や受精卵移植を取り扱う仕事です。
家畜人工授精師は、家畜の数を調整することにより、牛乳などの生産量を調整する役割があります。
ここに、牛乳が大好きな高校生が、将来の進路について相談にやってきました。
母乳(生乳)を、みんなが安全に飲めるように、工場で殺菌やパック詰めをされたものが牛乳です。
そういえば、生乳があまって捨てたニュースがありましたね。
学校が休校になってしまい、牛乳を飲む人が減ってしまったことが原因の1つです。
その間、給食がなかったです。
生乳の量を調整するのは難しくないですか?
実は、量だけではなく、質も大切なんです。
牛は夏の暑さが苦手なので、どうしても乳量が減ってしまうんです。
酪農家と協力しながら、1年中、同じ質・同じ量の生乳をみなさんに提供する使命があります。
家畜人工授精師についてもっと聞かせてください。
家畜人工授精師とは
家畜人工授精師は、国家資格です。
家畜人工授精師になるには、修行試験に合格をする必要があります。修行試験を受ける権利を得るには、以下の2つのいずれかが必要です。
- 畜産学がある大学や短大を修了する
- 都道府県などが行う講習会課程を修了する
※修行試験→筆記試験、実地試験がある(2日間)
しかし、獣医師は、家畜人工授精師の資格がなくても、業務を行うことができます。
家畜とは、牛乳・肉・卵を生産するために牛や豚、鳥などを飼育し、繁殖させ、品種改良したものをいいます。
ちなみに、蜂(ハチ)も家畜なんです。
わたしたち家畜人工授精師は、農家さんと協力しながら、良質な畜産物を生産するのも仕事の1つです。
家畜人工授精師の適正
家畜人工授精師は、依頼を受けた農家に行き、家畜に人工授精をします。
生産者のニーズをききながら、目的に適したオスとメスを鑑別します。
そして良質な精子を採取し、メスの子宮に注射器で精子を注入します。
受精に関する知識が豊富な人
専門的な知識は、畜産学が学べる大学や短大で身に着けることができます。
または、講習会を受講することで身に着けることができます。
安全管理ができる人
生産者が丹精込めた家畜を預かるため、安全に良質な精子を採取する必要があります。
また、安全にメスの子宮に注射器で精子を注入する必要があります。
安全管理は、講習会の実技や日々の業務内で身に着けることができます。
鑑別スキルがある人
畜産農家の目的に応じた子を誕生させるため、家畜に病気はないか、骨格に異常はないか、交尾は可能かなど、両親を選ぶ選定する力が必要です。
これも、講習会の実技や日々の業務内で身に着けることができます。
体力がある人
家畜人工授精師は、人工授精に専従している方は少ないです。
実際は、農場の仕事の傍ら、人工授精の業務にあたっている人が多いです。
体力面において、男性が有利と思われがちですが、家畜の体格によって、腕が細い女性が有利になる場面があるため、女性の家畜人工授精師も活躍されています。
家畜人工授精師を取得する難易度は?
家畜人工授精師になるためには、主に以下の方法があります。
- 畜産学が学べる大学や短大に進学→修行試験に合格
- 道府県で実施される講習会課程を修了→修行試験に合格
農協(JA)職員が、家畜人工授精師として従事している方は、都道府県などが行う講習会課程を修了すると受験資格が得られます。
家畜人工授精師を取得するまでの費用・期間・時間
講習会過程を修了すると受験資格が得られることがわかりました。
講習会の詳細について説明します。
家畜の種類(牛・豚)によって、それぞれ免許を取得する必要があります。
受講費用
受講費用:2~4万円(道府県によって異なります)
受講期間
受講期間:約22日間(道府県によって異なります)
学科科目一覧
学科一般科目(約20時間) | 畜産概論 | 約4時間 |
家畜の栄養 | 約3時間 | |
家畜の 飼養※1 管理 | 約3時間 | |
家畜の 育種※2 | 約7時間 | |
関係法規 | 約3時間 | |
学科専門科目(約46時間) | 生殖器解剖 | 約5時間 |
繁殖生理(神経・内分泌及びメス繁殖生理) | 約13時間 | |
精子生理 | 約7時間 | |
種付け※3理論(妊娠と分娩) | 約4時間 | |
人工授精 | 約17時間 |
※1 飼養 :動物に食料(飼料)を与えて育てること
※2 育種 :家畜の品種改良を行うこと
※3 種付け :優良な種を繁殖させるために、優良種のオスをメスに交配させること
実習科目一覧
実習(74時間) | 家畜の飼養管理 | 約4時間 |
家畜の審査 | 約7時間 | |
生殖器解剖 | 約4時間 | |
発情※4鑑定 | 約6時間 | |
精液精子検査法 | 約8時間 | |
人工授精 | 約45時間 |
合計:140時間
※4 発情 :交尾可能な状態にあること
「家畜人工授精師になるんだ」という強い意思が必要だと思います。
家畜人工授精師の修業試験
畜産学が学べる大学・短大の課程を修了、または講習会課程を修了すると、修業試験を受けることができます。
身近で、牛の家畜人工授精師(豚もあります)の仕事を見て、自分もなりたいと思い、職場から推薦状をいただいて講習会を受講し修了しました。
修業試験の内容
合格基準は以下の通りです。
学科、実地試験ともに、1科目100点満点中、全科目の平均点が60点以上であること。
ただし、50点以下の科目が2科目を超える、または40点以下がある場合は不合格となります。
修業試験も変わるのですか?
講習および修業試験の一部免除
大学・短大を修了した者、他の畜種(牛以外)の講習会の修業試験の合格者は、一般科目の修業試験の免除を受けることができます。
大学・短大を修了した者
科目の免除を受けるためには、証明書が必要です。
- 畜産概論
- 家畜の栄養
- 家畜の飼養管理
- 家畜の育種
- 生殖器解剖
- 繁殖生理(神経・内分泌およびメス繁殖生理)
- 精子生理(オス繁殖生理)
- 種付けの理論(妊娠と分娩)
- 家畜の審査
他畜種についての講習会修業試験に合格した者
科目の免除を受けるためには、合格証書の写しが必要です。
- 畜産概論
- 家畜の栄養
- 家畜の飼養管理
- 家畜の育種
- 関係法規
修業試験に合格後の免許申請手続き方法
あとは、お住まいの都道府県に申請するだけですね。
家畜人工授精師の免許申請
申請先の都道府県によって多少異なりますが、免許申請書類は以下のものがあります。
- 家畜人工授精師免許申請書
- 家畜人工授精講習会修業試験合格書の写し
- 精神病者・麻薬もしくは大麻の中毒又は身体に障害のあるものであるかどうかに関する医師の診断書
- 戸籍謄本若しくは抄本又は本籍の記載がある住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書
- 自身の申立書
- 手数料:1,700円前後(収入証紙)(道府県によって異なります)
家畜人工授精師の仕事内容
主な仕事は、依頼を受けた農家に行き、家畜に人工授精をします。
農家との電話でのやりとり、異常時の獣医師とのやりとりなど、他職種との連携がかかせません。
家畜人工授精師の1日
地域差や職場によって異なりますが、家畜人工授精師の1日のおもな業務内容を紹介します。
7:00 出勤
8:30 事務所到着
9:00 1件目人工授精(1頭)
10:00 休憩
11:15 2件目人工授精、夕方再検査へ(1頭),エコー妊娠確認(6頭)
12:30 3件目人工授精(1頭)
13:00 4件目人工授精(1頭)
13:30 5件目人工授精(1頭)
14:00 6件目人工授精(1頭)、獣医師によるエコー妊娠鑑定の補助(2頭)
14:30 7件目人工授精(1頭)
高速道路で移動
15:40 発情なく人工授精できず(1頭)
16:00 8件目人工授精(1頭)
16:30 9件目人工授精(1頭)
17:30 10件目人工授精(1頭)
18:30 事務所
仕事のメリット・デメリット
仕事のメリットに以下があります。
- 日々、新たな発見や学びがあるため、常に勉強が必要
- 学会発表ができるチャンスがある
- 毎日、かわいい牛や豚、馬、ヤギ、犬、猫などとふれあえる
- 自身が人工授精・受精卵移植をした家畜の妊娠が確定したときの喜びは、なんともいえない
仕事のデメリットについて以下があります。
- 動物相手の仕事のため、休みが不規則かつ少なめ(所属先にもよる)
- 早朝(6:00頃)・夜(19:00頃)に仕事をすることもある
- 排泄物だらけになる
- 直腸検査をたくさん実施すること、(地域にもよるが)移動距離が100~150kmにもおよぶため、体力勝負!
とくに雪の降る冬は大変です。
家畜人工授精師の年収
年収は地域差や所属先にもよりますが、平均年収450万円ほどと言われています。
農協職員の場合、基本給(20万円ほど)に資格手当(5,000円~20,000円ほど)がプラスされます。
家畜人工授精師の求人はあるの?
求人は主に以下のところからあります。
- 農業協同組合(農協)、農業共済組合(共済)等
- 家畜診療所
- 大規模の酪農場
- 育成牧場
- 観光牧場
まとめ
家畜人工授精師についてまとめます。
- 家畜人工授精師は国家資格
- 資格を取得するには、畜産学を学べる大学・短大を修了する、もしくは道府県主催の講習会を修了し、修業試験に合格する
- 適正は、動物関係の仕事がしたい、と思っていること
- 知識・技術・体力が必要
- 仕事は大変だが、受精が成功した時はやりがいがある
- 年収は450万円ほど
- 求人はある
家畜人工授精師は、わたしたちが普段摂取している、畜産物を安定供給するために欠かせない仕事です。
興味のある方は資格取得に挑戦してみてはいかがでしょうか?