芸術療法は私たちが思っている以上に身近な中にも存在します。
歌を聴いたりダンスを踊ったり、人の評価にとらわれない表現方法は、自己の内面を引き出すのにとても有効です。
複雑な現代社会において、効果的な治療を行う芸術療法士の仕事とはどのようなものでしょうか?
芸術療法士の仕事内容、資格の取得方法と難易度まで詳しくご紹介します。
Contents
芸術療法士ってなに?
芸術療法士とは、絵画やダンス、アートなど、自由な表現を用いて心理的なケアを行う専門職です。
発達障害の子どもや不登校、ひきこもり、うつ病などの治療の一環として重要視されています。
学校教育での点数評価ではなく、その人自身の心と体を解放して内面を表現することが治療に有効なのです。
しかしながら日本では、まだ芸術療法を専門的に学べるシステムが整っていません。
残念ながら日本では国家資格がなく、学問として学べる機関もありません。
日本の場合は、芸術療法士の資格だけでは医療機関などに就職ができません。
臨床心理士や公認心理師などの資格を持ち、治療の一環として芸術療法を取り入れることになっています。
これらの資格があれば、芸術療法士の資格はなくとも芸術療法を治療に取り入れることができます。
しかし、多様な表現から患者にベストな治療法を選び、効果を上げるためには芸術療法に関する専門的な学びが必要です。
実際に精神科に勤めながらも、芸術療法に詳しくない医師はたくさんいます。
幅広い治療法を身につけるためにも、芸術療法士の資格を取り、その効果についてもしっかりと学ぶ必要があるのです。
芸術療法士の仕事内容は?
芸術療法士の仕事内容は、患者に合った芸術的表現方法を選び、心身のバランスを向上させることです。
そこで用いられる治療法には以下のようなものがあります。
- 心理劇(演劇の手法を用いてそれぞれの立場からどう思うかを推測します)
- 詩歌療法(短歌や俳句などで自分の気持ちを外へ向けて表現します)
- ダンス療法(音楽に合わせて体を動かすことで精神に働きかけます)
- コラージュ(切り貼り遊びを通じて患者との心理的距離を縮めます)
- 造形療法(粘土などを使って幼少期の感覚を思い出しながら立体的な表現をします)
- 絵画療法(絵を描くことで内面を知り、治療に役立てます)
- 音楽療法(音楽を聴いたり演奏することで心の状態を改善します)
- 箱庭療法(庭のような箱の中に人物や家、ペット、自転車などを自由に配置し、内面を知りながら心を癒していきます)
この中で一例として、心理劇療法のやり方について説明したいと思います。
心理劇は何人かのグループで行う即興劇です。
以下のような手順で行います。
- 会場づくり(椅子やテーブルな、必要なもののセッティング)
- 設定と役決め(心理劇の大まかなテーマとストーリー設定、それぞれの役決め)
- リハーサル(余興演習)
- 発表(セリフなどのシナリオはなく、自由に演じる)
- 気づきの共有(演じた仲間や周りで見ていた仲間との気づきを共有する)
- 自己評価(自己理解を深め、他者との関わり方を考える)
心理劇に良い悪いはありません。
正解を求めることに慣れている子どもは、始めは戸惑いますが回数を重ねるごとに慣れていきます。
演じることによって恥ずかしさや緊張を解きほぐし、自己の内面を客観的に見つめたり、他者と関わる楽しさを学んでいきます。
このようにして患者に合った治療法を進めていきます。
カウンセリングだけではわからない心の内面を知ることが、治療を進める上で大いに役立つのです。
芸術療法士になるにはどうしたらいいの?
日本で芸術療法士を名乗るには、日本芸術療法学会の認定を受けることです。
それにはまず、日本芸術療法学会に入会することが必要です。
入会申込書を提出し、審査に通ったら入会金5,000円と年会費10,000円を振り込みます。
年会費は資格認定後も毎年同じ額を払うようになります。3年間を超えて滞納した場合は、会員資格が停止されます。
入会後、毎年開催せれているセミナーに参加することが資格取得の条件です。
セミナーへ参加する際はさらに30,000円の参加料を支払います。
セミナーの内容には以下のようなものがあります。(テーマは毎回変動します)
コース | テーマ | 内容 |
プライマリーコース | 全体でみる芸術と、各分野の詳細 | 初めて芸術療法を学ぶ人や、心理士として働いているが芸術療法は詳しくないという人などへ向けた基礎的なもの |
アドバンストコース | 芸術療法と◯◯ | 芸術療法を具体的に紹介。援助職の養成 |
プライマリーコースから受講し、終了するとアドバンスコースへと進めます。
芸術療法士として認定されるには、どちらのコースも受講を終えていることが条件です。
受講が終わると修了証が送られます。
その後の流れは明確に公開されていませんが、資格申請書に記入の上提出するようです。
芸術療法士の資格に通信講座はある?
芸術療法士という資格は日本芸術療法協会の認定で取得できますが、通信講座はありません。
もし通信で芸術療法を学びたいと思ったらアートセラピストの資格がおすすめです。※厳密には芸術療法士の資格ではありません。
アートセラピストは絵画や造形、コーラジュなどのアート系の表現を用いて心理療法を行います。
アートセラピストの資格を取得するには、日本初のアートセラピスト専門スクールである「オーロラ」のアートセラピスト専門養成講座がおすすめです。
自宅でテキストとDVDを見ながら学習を進めますが、アートセラピーの基本から生活に潜む心の病、心理的ケアなど実際の仕事に役立つ内容を学ぶことができます。
期間は6ヶ月で、費用は280,000円(税抜)となっています。
なかなかお値段はしますが、6ヶ月をかけてアートセラピストの知識を習得できる充実の内容です。
資格取得後は就職支援もあるので安心ですよ。
芸術療法士の難易度は?
芸術療法士の資格は日本芸術療法学会のセミナーに参加することで認定を受けることができます。
そのため比較的難易度は易しいといえるでしょう。
ただこのセミナーが全国で開催されているわけではなく、ほとんどが東京で年に1回と日時も限られています。
そういった面で、地方から取得を考える方にとっては少々ハードルが高いかもしれません。
芸術療法士を活かせる資格
現在日本では、芸術療法士の資格だけで仕事をしている人はいません。他の仕事と組み合わせて芸術療法士の資格を活かしています。
例えば精神科医が1つの治療法として芸術療法を使います。このように、芸術療法に関連する資格をもつことで、実際の治療に活かすことができるのです。
そこで、芸術療法を活かすことができる資格をご紹介したいと思います。
公認心理師【国家資格】
公認心理師の資格は、2015年公認心理士法の制定により、2017年から施行された国家資格です。
この資格ができたことにより、公認心理師の資格がなければ「心理師」を名乗れなくなりました。
資格取得には、大学か専門学校で所定の科目を修了し、大学院を卒業するか実務経験2年以上が必要です。
国家試験に合格すれば公認心理師の資格を取得できます。
精神科医【国家資格】
精神科医はその名のとおり精神疾患や心身症など、心の不調を専門とする医師です。
精神科医となるには、医師国家試験に合格して医師免許を取得することが必要です。
国家試験を受けるには、大学の医学部で6年間学ぶことが条件となっています。
医師免許取得後は、精神科で研修生として2年間経験を積むと精神科医として勤務することができます。
作業療法士【国家資格】
作業療法士は芸術療法士に最も近い資格といえるでしょう。
心身に障害を持った方に手芸・工芸・造園などを通し、社会への適応を促します。
作業療法士になるには、国家資格である「作業療法士資格」を取得する必要があります。
受験には文部科学大臣または厚生労働大臣が指定した大学、専門学校などで3年以上学ぶことが必要です。
そうして国家試験に合格すると作業療法士として働くことができます。
臨床心理士【民間資格】
臨床心理士の資格は、心理学の民間資格において最も信頼できる資格です。
国家資格である公認心理師ができる前は、臨床心理士が知名度No.1でした。
臨床心理士になるためには、日本臨床心理士資格認定協会が運営する試験に合格する必要があります。
受験には同協会が認める指定大学院(第1種・第2種)、または専門職大学院を修了することが条件です。
指定大学院の第2種を修了した場合、さらに実務経験1年以上が必要です。
志願者も多く、倍率は年々上がっています。
芸術療法士を活かせる職場
芸術療法士の資格は、他の信頼ある心理療法士の資格を取得することで活かせるとお伝えしました。
ここでは具体的にどんな職場があるのかご紹介します。
芸術療法が活かせる職場は以下のようなところです。
- 医療機関
- 精神病院
- 学校内カウンセリング
- 発達障害支援センター
- ワークショップ体験
現代では学校でのケアが重要性を増しています。
もちろん学校以外でも、働き盛りの方でうつ病が増えていることから、必要とされる場所は今後も増えていくでしょう。
まとめ
芸術療法士の仕事は、心理的な治療の一環として自由な表現方法を使い、心の状態を回復する有効な治療法であるとお伝えしました。
人間関係や社会の仕組みにおいて複雑化する現代では、これからも需要は増していくでしょう。
ここでお伝えしたのは以下の内容です。
- 芸術療法士は絵、造形、演劇、ダンスなどの自由な表現方法を用いる心理療法
- 芸術療法士になるには日本芸術療法学会の認定を受ける必要がある
- 通信で勉強したい場合はアートセラピストの講座がおすすめ
- 芸術療法を活かせる資格
- 芸術療法を活かせる職場
これから心理関係の仕事を目指す方はもちろん、今の仕事に芸術療法を取り入れたい方にはおすすめの資格です。
また美術やダンスなど特技を人のために活かしたい方はボランティアという道もあります。
ぜひ芸術療法を学んで、患者さんの笑顔を増やしていってください。